
『白鯨』を読んだら、スターバックスコーヒーの店名の元になっている登場人物スターバック一等航海士がわりと堅実な、悪く言うと夢のないタイプだったのでびっくりした。
『白鯨』あらすじ
『白鯨』は、語り手イシュメイルが捕鯨船ピークォド号に乗り込み、海を渡りながら世界を観察し続ける話でもあり、同時に船長エイハブの「白鯨モビー・ディックへの復讐」に船全体が巻き込まれていく話でもある。
本来の捕鯨は鯨油を取るための仕事であり労働だけど、エイハブの執念がそこをねじ曲げ、白鯨はただの動物から「運命」「神」「世界」みたいに過大化されていく。
航海の終盤、止める側の声は届かず、狂気が意思決定を支配し、最後はピークォド号が白鯨との遭遇で破滅し、イシュメイルだけが漂流して生き残る。
スターバック一等航海士とは
スターバック(Starbuck)はピークォド号の一等航海士で、慎重で道徳的で、自然を舐めないタイプの現実主義者だ。
彼のキモは「勇敢であること」より「危険を正確に見積もること」で、たとえば第26章で、スターバックはこう言う──「自分のボートには、鯨を怖がらない男は乗せない」そして、危険を正当に見積もって怖がれる勇気こそ有用で、怖さゼロの人間のほうが仲間として危険、と続ける。
エイハブの復讐については、さらに露骨に噛みつく──「無口な獣への復讐?」「本能であなたを傷つけただけの相手に怒り狂うのは冒涜に見える」みたいに、復讐を宗教的・倫理的に拒否する。
それでも船を降りないのは、航海中の脱走が重罪という現実もあるし、何より「自分が降りたら、この船は狂ったエイハブに完全に握られて、破滅に直行する」という中間管理職的な責任感に縛られているからだと思う。
彼にとっての最大かつ普遍的な悲劇は、エイハブを止める最終手段が目の前にあっても、秩序と法を踏み越えられず、引き金を引けないところだと言える。
『白鯨』のスターバックと「スターバックス」:狂気と理性の全史
スターバックスの歴史に関しては諸説あるが、強めな説をもとにスターバック一等航海士の店名由来と哲学について考えてみた。
1. なぜ「地味な一等航海士」が店名の由来に選ばれたのか
1971年、スターバックスの創業者たちは、名前に「海の冒険」と北西部の空気と、昔の海運コーヒー交易の匂いを入れたかった。
最初は船の名前「Pequod(ピークォド)」案が出たけど、響きが「Pee-kwod」(英語的に下品)っぽく聞こえる、と却下されている。
次に言葉の頭が「st」だといいね、ってことになり、候補リストが作られ、地元の鉱山地図の「Starbo(Storboの読み違い)」みたいな響きが引っかかり、そこから『白鯨』の堅実なキャラクター「Starbuck」(スターバック)にちなんだ店名に決まった、という流れになる。
そしてエイハブ船長的なもの(不可能を可能にすることだけを盲目的に求める。それまでのアメリカを体現した存在)よりも地に足をつけて本当の価値を考えるスターバックがより理想と考えられ、大量生産の劣悪なコーヒーではなく、質の高いコーヒーを居心地のよい店舗で味わうことをできるようにした。
2. スターバック一等航海士の正体
本を読む感じ、スターバック一等航海士は、いい感じのキャラではない。堅物で冷めている。彼はクジラを神格化せず、復讐を拒否し、危険を冷静に見積もる。
「怖がらない男は危険」という一文は、勇気礼賛の物語をひっくり返していて、現代で言うと、まともな倫理観を持つビジネスマン、しかも現場を回すプロ、という立ち位置になる。
危険な局面で逃げない部分が一番中間管理職的で、「逃げた瞬間に船が終わる、終わらせたくない」という責任で自分をしばりつけてしまう。
3. スターバック性の保持の難しさについて
スターバックス・コーヒーは果たして今も「スターバック」的なのか?
実際のところ、巨大企業へ成長したスターバックスは、スターバックが嫌った「何よりも成功を強く追い求める狂気(エイハブ要素)」を持ってはいないのか。
かつて利益率向上のため、豆を密閉保存する「フレーバーロック」袋を導入したことにより店内にコーヒーの香りが漂わなくなったことや、バリスタの視線を遮る背の高いエスプレッソマシンを導入した結果顧客との会話が途絶えたことが社内で問題視されたことがある。
さまざまな騒動や経済状況を見て「Back to Starbucks」を掲げたのがブライアン・ニコルで、彼は2024年にCEOとして「スタバをスタバに戻す」ことを宣言している。
一方で、注文から提供までのスピード目標も掲げている。
つまり、精神を取り戻しつつ現代のスピードにも適応しようとしていることとなる。
まとめ
スターバックスがこの名前を選んだ意図は、「狂ったように忙しい現代社会(エイハブの航海)に巻き込まれそうな人が、一時の理性と自分自身を取り戻すための止まり木を作ること」だった。
個人的にスターバックスがとても好きだし、バイトもしてたし、旅先で見つけるとなんとなく安心する。でもこの哲学(スターバック性)を保つのってすごく難しいんだろうな、と思う。すごく努力してる気がするけど。
『白鯨』を読む方法


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